ポストバイオティクスは、私たちが昔から親しんできた発酵食品にすでに含まれている。本記事では「食品にもともと含まれるポストバイオティクス」と「腸内で生み出されるポストバイオティクス」の違いを整理し、今日から取り入れられる具体的な食品とサプリメントの活用法をまとめた。

「含まれる」と「生み出される」――ポストバイオティクスの2つのルート
ポストバイオティクスを正しく理解するうえで最も大切なのが、この2つの区別です。
① 食品に”もともと”含まれるポストバイオティクス
発酵や加熱などの過程で、不活化した菌体やその構成成分(細胞壁、ペプチドグリカン、表面タンパクなど)、あるいは菌が作り出した代謝産物が、食べる時点ですでに食品の中に存在しているケースです。私たちが口に入れる段階で「完成している」ポストバイオティクスといえます。2021年にISAPP(国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会)が示した定義でも、こうした不活化微生物とその成分を含む調製物が中心に位置づけられています。
② 腸内で”生み出される”ポストバイオティクス
食物繊維やオリゴ糖といったプレバイオティクスを腸内細菌が発酵することで、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸など)などの代謝産物が大腸内で新たに作られるケースです。この場合、食べ物そのものにポストバイオティクスが含まれているわけではなく、私たちの腸が”生産工場”の役割を果たします。
発酵食品――ポストバイオティクスを直接摂れるもっとも身近な供給源
ポストバイオティクスを直接摂取できる代表格が、伝統的な発酵食品です。発酵とは微生物が有機物を分解して別の物質に変える営みですから、そこには必ず菌が生み出した代謝産物が存在し、発酵を終えた菌体そのものも食品中に残ります。日本の食卓には、その宝庫がそろっています。
味噌・醤油
大豆や麦、米などを麹菌・乳酸菌・酵母の力で発酵させた味噌や醤油は、日本が誇るポストバイオティクスの供給源です。発酵の過程でタンパク質はアミノ酸やペプチドに、でんぷんは糖や有機酸へと分解され、メラノイジン(抗酸化作用で知られる褐色色素)をはじめ多様な成分が生まれます。味噌汁を加熱しても、これらの代謝産物や菌体成分はスープに溶け出して残るため、ポストバイオティクスとしての価値が失われることはありません。むしろ「生きた菌にこだわらなくてよい」という点こそ、ポストバイオティクス的な発想の特徴です。
納豆
納豆菌が大豆を発酵させることで、独特の粘りやうま味が生まれます。この粘りにはポリグルタミン酸やレバンといった菌体外多糖が含まれ、ビタミンK₂なども菌の代謝産物です。納豆を食べることで、菌が作り出した多様な成分をダイレクトに摂取できます。なお、納豆に含まれるナットウキナーゼは熱に弱い性質があるため、その働きを期待する場合は加熱しすぎない食べ方が向いています。
漬物(ぬか漬け・キムチ・ザワークラウトなど)
野菜を乳酸菌で発酵させる漬物には、乳酸や酢酸などの有機酸、菌体外多糖、菌体成分が溶け込んでいます。とくにぬか床には多様な微生物が棲み分けており、発酵が進むほど代謝産物のバリエーションも豊かになります。発酵が浅いものは生きた乳酸菌(プロバイオティクス)の側面が強く、しっかり発酵が進んだものはポストバイオティクス的な成分が増える、と考えるとイメージしやすいでしょう。
チーズ・ヨーグルト
乳を乳酸菌で発酵させたチーズやヨーグルトには、乳酸やペプチド、菌体外多糖などが含まれます。ヨーグルトでは生きた菌が注目されがちですが、加熱調理したチーズや殺菌処理された飲料タイプでも、菌体成分や代謝産物はしっかり残ります。とくにパルミジャーノ・レッジャーノのような長期熟成チーズは、タンパク質がアミノ酸やペプチドにまで分解され、より高度な発酵産物を含むことが知られています。
黒酢・りんご酢などの醸造酢
酢酸菌による発酵でつくられる醸造酢も、ポストバイオティクスの観点では優秀な食品です。主成分の酢酸はまさに短鎖脂肪酸の一種であり、発酵過程で生じた他の有機酸やアミノ酸もあわせて摂取できます。
甘酒・酒粕
麹菌や酵母が米を発酵させた甘酒・酒粕には、アミノ酸やビタミンB群、酵母由来のβ-グルカンなど、豊富な代謝産物が含まれます。「飲む点滴」と呼ばれるとおり、加熱して飲んでも菌体成分や栄養成分は活かせます。
パンや酒類は”ほどほど”に
パン酵母が糖を分解して生じる有機酸なども広義の代謝産物で、とくに伝統的なサワードウ(天然酵母パン)では乳酸菌が関与し、乳酸や酢酸が焼成後も残ります。一方、ビールやワイン、日本酒にも発酵代謝産物は含まれますが、アルコールそのものはポストバイオティクスとしての健康効果を期待する対象ではありません。アルコールのリスクとの兼ね合いから、これらを積極的な摂取源として推奨するものではない点には注意が必要です。
成分としてどう摂るか――食品とサプリメントの位置づけ
ポストバイオティクスは、日常の食事だけでなく、「成分」として抽出・濃縮され、サプリメントや機能性表示食品という形でも利用されています。商品パッケージでは、次のようなキーワードで表示されることが多いものです。
殺菌乳酸菌(不活化菌体・パラプロバイオティクス)
加熱や乾燥で意図的に不活化した菌体を配合したものです。「殺菌乳酸菌」「ヒートキルド乳酸菌」「パラプロバイオティクス」などと表記されます。生菌のように生存率を気にする必要がなく、保存・流通が安定しているうえ、生菌では難しいグラム単位のまとまった量を確実に摂取できるのが大きな強みです。特定の菌株を用いた製品には、免疫機能などとの関連を調べた研究データにもとづいて設計されたものが多く、研究の進展とともにラインナップも充実してきています。
乳酸菌生産物質(発酵エキス)
乳酸菌やビフィズス菌を培養したのち、菌体をろ過で取り除き、培養液に溶け出した代謝産物を濃縮したものです。短鎖脂肪酸、有機酸、アミノ酸、ペプチドなどを含みます。菌が”あらかじめ分解してくれた”成分を中心とするため、消化器官にやさしく、効率よく吸収されやすいのが特徴です。どの菌株を、どんな条件で培養・濃縮するかによって成分設計を作り込めるのもこの形態ならではの強みで、原料や研究データを開示している製品を選べば、狙った成分を狙った量で取り入れられます。
短鎖脂肪酸そのものの製剤
酪酸やプロピオン酸などを直接摂れるよう、酪酸カルシウムなどの形に製剤化したものもあります。ポストバイオティクスの代謝産物をピンポイントで補える設計です。なお、菌体や代謝産物を含む生理機能性物質を総称して「バイオジェニックス」と呼ぶこともあります。
食品とサプリメントは、それぞれに異なる強みをもつ確かな選択肢です。食品は多様な成分を複合的に含み、日常の食事として楽しめます。一方サプリメントは、特定の菌株や成分を、研究で確かめられた有効量で、毎日ばらつきなく摂取できるのが大きな利点です。食品では含有量や摂取量が日々変動しますが、標準化されたサプリメントなら、狙った成分を狙った量で、確実かつ簡便に取り入れられます。日本でも、ヒト試験のエビデンスにもとづいて機能性を届け出た機能性表示食品が数多く流通し、ポストバイオティクス関連の製品も着実に充実してきました。研究データに裏づけられた製品を選び、表示に沿って取り入れれば、食事だけでは届きにくい成分を効率よく補える、頼れる手段になります。
摂り方の基本――今日から実践できる5つのコツ
では、日々の生活でどうポストバイオティクスを意識すればよいのでしょうか。難しく考える必要はありません。次の5つを押さえれば十分です。

- 加熱を過度に怖がらない。「乳酸菌は生きて腸に届かないと意味がない」という思い込みから発酵食品の加熱を避ける方もいますが、ポストバイオティクスの視点では加熱はむしろ味方です。菌が死滅しても、菌体成分や代謝産物には熱に強いものが多く、腸での働きは保たれます。加熱でかさが減り、より多くの菌体を一度に摂れるという利点さえあります。味噌汁、納豆チャーハン、炒め物に味噌——加熱メニューにも気兼ねなく取り入れましょう。
- 動物性・植物性をバランスよく。乳由来(ヨーグルト・チーズ)、豆由来(納豆・味噌)、野菜由来(漬物)、穀物由来(醤油・酢・甘酒)と、起源の異なる発酵食品をローテーションすると、摂れる代謝産物や菌体成分の種類が自然と広がります。菌の種類によって細胞壁の構造も代謝産物も異なるため、「毎日同じヨーグルト」より「日替わりで何種類か」のほうが、腸への刺激も多角的になります。
- プレバイオティクスとの”合わせ技”で体内生産も促す。食品に含まれるポストバイオティクスが”即戦力”なら、腸内の菌に働いてもらう体内生産は”地力づくり”です。両方をそろえる「シンバイオティクス」的な食べ方が、腸活の実感につながりやすいとされています。味噌汁にわかめや野菜をたっぷり、納豆にオクラやめかぶ、ヨーグルトにバナナやオートミール——同じ食卓に「発酵食品+食物繊維」を並べるだけで効率的です。
- 和食の基本形を活かす。一汁三菜は、味噌汁(発酵)と漬物(発酵)に煮物や焼き魚を組み合わせた、ポストバイオティクスと相性のよいスタイルです。とくに味噌汁は、加熱を気にせず毎日続けられる、最も手軽な供給源といえます。
- サプリメントを積極的に活用する。現代の食生活では、狙った成分を毎日一定量とり続けるのは意外と難しいものです。そんなとき、エビデンスに裏づけられたサプリメントは、ポストバイオティクスを安定して、しかも効率よく取り入れられる頼もしい選択肢になります。ヒト試験で検討された菌株・製品か、GMPなど品質管理が行き届いているか、1日摂取目安量が明示されているかを目安に選べば、食品だけではばらつきがちな摂取量を自分でしっかりコントロールできます。食事とサプリメントは対立するものではなく、目的に応じて積極的に組み合わせてよい——それが現代の腸活の柔軟さであり、賢いところです。
取り入れる前に知っておきたい注意点
最後に、ポストバイオティクスと上手につき合うために、いくつか頭の片隅に置いておきたいことを挙げます。
腸内環境の状態や食事全体、ストレス、睡眠などによって、効果の現れ方には個人差があります。数日で調子の変化を感じる人もいれば、数週間〜数ヶ月かけて整っていく人もいるため、短期で判断せず続けることが、食品・サプリメントいずれにも共通する基本です。また、アレルギーや持病のある方、治療中の方は、新しい食品やサプリメントを生活に加える前に、医師や管理栄養士に相談すると安心です。発酵食品は塩分を含むものも多いので味噌汁や漬物のとり方には少し気を配り、サプリメントは表示された摂取目安量に沿って取り入れれば、それぞれの良さを無理なく活かせます。
まとめ――ポストバイオティクスを食事とサプリメントで味方につける

ポストバイオティクスは、「発酵食品にすでに含まれている代謝産物や菌体成分」として、そして「腸内でプレバイオティクスから生み出される代謝産物」として、2つのルートで私たちの体に届きます。身近な供給源は、味噌・納豆・漬物・チーズ・ヨーグルト・醸造酢・甘酒など。一方、ごぼうや海藻、バナナといった食物繊維豊富な食品は、体内でポストバイオティクスを生み出すための”材料”です。両者の役割を混同しないことが、正しい腸活の第一歩になります。
さらに、サプリメントという形で特定の菌体や代謝産物を、研究にもとづく有効量で選択的に摂るアプローチも確立されており、食品とならぶ確かな選択肢として活用できます。研究の進展とともに素材や製法も多様化し、目的に合わせて狙った成分を的確に選べるようになってきました。
まだ研究が進展を続けている分野だからこそ、これからの広がりが楽しみな領域でもあります。先人の知恵が詰まった発酵食品を楽しく味わいながら、エビデンスに裏づけられたサプリメントも積極的に取り入れる——この両輪こそ、ポストバイオティクスを味方につける最も確かで、おいしい方法ではないでしょうか。「今日は菌の恵みをチャージしよう」。そんな気持ちで、いつもの食卓と毎日の習慣を見直してみてください。

