「添加物は体に悪い」「無添加の食品だけを選ぶべき」といった情報に触れ、不安になった経験がある人は多いでしょう。食品の安全性を気にする姿勢は大切ですが、恐怖をあおる情報をそのまま信じるのではなく、何が、どの量で、どのような根拠に基づいて危険とされているのかを確かめる視点が欠かせません。
この記事では、個別の添加物の安全性ではなく、食品の危険情報をどう読み、どう判断するかを考えます。
「添加物は体に悪い」は、どこまで本当か
「添加物は体に悪い」という表現は、非常に強く、わかりやすい言葉です。しかし、そのままでは科学的な情報として不十分です。添加物には多くの種類があり、用途も化学的性質も、安全性評価の内容も異なります。すべてを一括りにして「体に悪い」と言い切ることはできません。
日本では、食品添加物は原則として、食品安全委員会による食品健康影響評価を受けたうえで、使用が認められています。さらに、食品ごとの使用基準や最大使用量が定められ、実際の摂取量も調査されています。厚生労働省の消費者向けQ&Aによると、食品添加物は科学的なデータに基づいてADI(一日摂取許容量)が設定され、実際の摂取量についてもマーケットバスケット方式で調査されており、最近の調査結果では、実際の摂取量はADIを大きく下回っているとされています。
もちろん、「国が認めているから、何も考えずに大量に摂ってよい」という話ではありません。大切なのは、添加物に限らず、食品の安全性はハザード(有害になり得る性質)だけでなく、実際に摂取する量を含めて考えるという点です。
量の考え方――どんなものでも量しだい
「天然だから安全」「化学物質だから危険」という二分法は、食品の安全性を考えるうえで役に立ちません。水、塩、砂糖、ビタミン、カフェインなど、日常的に口にするものでも、摂取量が極端に多ければ健康に影響する可能性があります。
例えば、食塩は生命維持に必要な成分ですが、過剰摂取は高血圧などのリスクにつながります。水も、短時間に大量に飲めば体内の電解質バランスを崩すおそれがあります。反対に、食品に含まれる物質が「危険な性質を持つ」とされていても、実際の摂取量が十分に低ければ、健康影響のリスクは低くなります。
食品添加物のADIも、この考え方に基づく指標です。ADIとは、人が毎日、一生涯にわたって摂取を続けても、健康に悪影響がないと考えられる一日当たりの摂取量です。動物試験などで健康への悪影響が見られなかった量をもとに、動物と人の違いや個人差を考慮して、十分な安全係数を設けて設定されます。
危険情報を見るときは、「危険性がある」という一文だけで終わらせず、次のように問い直してみましょう。
- どの成分についての話か
- どの程度の量を摂取した場合の話か
- 動物実験か、人での研究か
- 通常の食生活で到達する量なのか
- 一回の摂取か、長期的な摂取か
- 公的機関や専門家による評価はどうなっているか
「成分名」と「危険」という言葉だけを結びつける情報は、最も重要な”量”を省いていることがあります。
悪者に仕立て上げる表現の技術――DHMOの話
食品の危険情報がどのように作られるかを理解するうえで、端的な例が「DHMO(ジヒドロゲン・モノオキシド)」の話です。まずは、以下の文章をよく読んでみてください。
DHMOは常温で主に液体であり、無色、無臭、無味であるが、毎年無数の人々を死に至らしめている。殆どの死亡例はDHMOを吸い込んだことに起因するが、危険はそれだけではない。固体のDHMOに長時間さらされると身体組織の激しい損傷を来たす。DHMOを必要以上に吸入すると発汗、多尿、腹部膨満感、吐気、嘔吐、電解質異常が出現する恐れがある。
DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主要成分である。地球温暖化の原因となる「温室効果」には、二酸化炭素以上に関係していることが判明している。また重度の熱傷の原因ともなり、地表の侵蝕の原因でもある。多くの金属を腐食させ、自動車の電気系統の異常やブレーキ機能低下を来す。また切除された末期癌組織には必ずこの物質が含まれている。
DHMOの存在は地球上の全生態系に及んでいる。多量のDHMOが米国内の多くの河川、湖沼、貯水池で発見されている。南極の氷の中にも発見されており、中西部とカリフォルニアだけでも数百万ドルに上る被害をもたらしている。
このような状況にも関わらず、DHMOは溶解や冷却等の目的により企業等で利用されており、原子力施設や発泡スチロール製造、消火剤、動物実験に使われ続けている。農薬散布にも使われ、洗浄後にも残存して完全な除去は困難である。また、ある種の「ジャンクフード」にも大量に含まれている。
企業は使用済みのDHMOを大量に河川、海洋に投棄しており、それはまだ違法ともされていない。自然生物への影響は計り知れないが、我々は今のところ何も出来ないで居る。
アメリカを含む各国政府はこの物質の製造、頒布に関する規制をできていない。海軍などの軍機関はDHMOに関する研究に対して巨額の費用を投じて実施している。目的は軍事行動時にDHMOを効果的に利用するためである。多くの軍事施設には、地下に近代的な施設が造られ、後の使用に備えて大量のDHMOが備蓄されている。
これを読んで、DHMOという物質を規制すべきだと感じた方もいるかもしれません。しかし種明かしをすると、DHMO(Dihydrogen Monoxide)とは、化学式で書けばH₂O、つまり水のことです。
水は大量に吸い込めば溺れる原因になりますし、金属の腐食にも関係します。がん細胞に水分が含まれることも事実です。つまり、ここに書かれている個々の記述は全て真実です。けれども、こうした断片的な事実だけを切り取り、不安を煽るような言葉を並べることで、ありふれた安全な物質を「危険な化学物質」であるかのように見せかけることができてしまいます。
この例が教えてくれるのは、事実の一部だけを並べても、全体として正しい判断にはならないということです。「化学物質」「毒性」「発がん性」「禁止」「異常」といった言葉だけで恐怖を感じたときこそ、情報の前提、条件、量、比較対象を確認する必要があります。
「無添加」表示のカラクリ
「無添加」「○○不使用」という言葉には、健康的で安全そうな印象があります。しかし、無添加表示は「食品全体に添加物が一切使われていない」ことを必ずしも意味しません。
食品表示では、原則として使用した添加物を表示します。一方で、最終製品において効果を発揮しないものなどは、表示を省略できる場合があります。代表例が加工助剤とキャリーオーバーです。加工助剤とは、製造工程で使用されても、最終的な食品の完成時には除去される、またはごく微量しか残らず、食品中で効果を示さないものです。キャリーオーバーとは、原材料には添加物として使われていても、最終製品では添加物としての効果を発揮しない場合を指します。
これは「表示をごまかしている」という意味ではありません。食品表示の制度は、最終製品における添加物の機能や表示の必要性を基準に設計されています。ただし、消費者が「無添加」という大きな表示だけを見て、「添加物が一切存在しない食品」と受け取ると、実態とのずれが生じる可能性があります。
こうした背景から、消費者庁は2022年3月に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を策定しました。約2年の移行期間を経て、2024年4月から適用されています。このガイドラインは、消費者に誤認を与えるおそれのある表示を自己点検するための指針になっています。例えば「食品表示基準に規定のない用語を使用した表示」「特定の添加物を使用していない旨の表示」「健康、安全と関連付けた表示」「過度に強調された表示」などが挙げられています。
ニセ情報を見分けるための視点
食品に関する危険情報は、SNS、動画、ブログ、広告などを通じて急速に広がります。なかには善意の発信もありますが、再生回数、クリック数、商品の販売、不安をあおるストーリーづくりが優先されているケースもあります。情報を判断するときは、次の視点を持つとよいでしょう。
- 情報源はどこか――公的機関、学会、査読付き論文、専門職による解説なのか。あるいは、販売者、個人ブログ、匿名投稿なのか
- 一次情報が示されているか――論文、制度資料、調査報告書へのリンクがあるか
- 量と条件が書かれているか――どれくらい食べた場合の話なのか。通常の食生活で起こり得る条件か
- 一つの研究だけで結論づけていないか――研究結果には条件や限界があり、単独の報告だけで安全性全体は決まらない
- 「絶対」「必ず」「毒」「今すぐやめるべき」と断言していないか――強い断言は、根拠より感情を動かす目的で使われることがある
- 比較対象があるか――添加物のリスクだけを強調し、微生物汚染、栄養の偏り、食品ロス、価格、保存性などを無視していないか
食品安全は、「ゼロか100か」で判断できるものではありません。科学は不確実性を含みますが、だからこそ、複数の研究、公的な評価、実際の摂取量を総合して判断します。
まとめ
「添加物は体に悪い」という情報に出会ったとき、まず確認したいのは、その話が”何を、どの程度、どの条件で危険だと言っているのか”です。
食品添加物には、安全性の評価、ADIの設定、使用基準、実際の摂取量調査という複数の管理の仕組みがあります。日本では、実際の食品からの添加物摂取量がADIを大きく下回っていることも確認されています。
無添加という表示も、食品の安全性を保証する魔法の言葉ではありません。表示の対象、加工助剤やキャリーオーバーの扱い、食品全体の品質や衛生管理まで見て、初めて適切な判断に近づきます。
不安を感じたときほど、強い言葉や刺激的な見出しに反応するのではなく、情報源、量、条件、根拠、そして公的な評価を確認すること。
消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(2022年3月策定、2024年4月適用)
内閣府 食品安全委員会「食品健康影響評価」「一日摂取許容量(ADI)とは?」
DHMOの引用部分は、インターネット上で広く流布している科学リテラシー教材(DHMOパロディ)からの引用です。